製品開発の現場で「設計品質をどう高めるか」は、いつの時代も変わらぬテーマです
特に最近は、顧客の要求レベルが高まり、市場のスピードも加速しているなかで、設計段階でのミスがそのまま製品の不具合に直結してしまう
逆に言えば、設計品質を高めることが、商品力、ブランドイメージ向上に大きく貢献できることになります
今回は、私自身の現場経験を踏まえながら、「設計の見える化」によって設計品質をどう高めていくのか、その考え方とポイントを紹介します
なぜ「設計の見える化」が必要なのか?
設計業務というのは、どうしても属人的になりがちです
設計者の頭の中にある知識や意図が、図面や仕様書に現れたとしても、
「なぜこの仕様にしたのか?」
「この目標設定は何を根拠に決めたのか?」
といった目標設定、設計の根拠までは共有されないことが多いのではないでしょうか
この“ブラックボックス化””属人化”が、後々の品質トラブルや再設計、開発遅延の原因となるケースは少なくありません
だからこそ、「設計の見える化」が重要なのです
「見える化」がもたらす3つの効果
「設計の見える化」とは、単なる資料作成ではありません
「設計者の思考」を関係者と共有し、技術的な根拠を組織的に残すことがポイントです
① 開発の質が高まる
品質目標や設計根拠、実現手段を明確にすることで、開発段階から関係者と“共通認識”を持てます
これは設計の妥当性チェックやレビューの質を高め、トラブルの芽を早期に摘むことにもつながります
② 資産化し技術の継承・人材育成がスムーズに
ベテランの勘や経験に頼っていたノウハウを、資産化し形式知として残せるようになります
これは若手育成においても非常に有効です
属人化の回避や技術資産の蓄積にもつながり、結果として“組織としての設計力”が上がっていきます
③ 業務効率の改善
設計意図が明確であることで、後工程での確認作業や調整が減り、全体の開発スピードも向上します
設計品質が低下する原因とは?
私の経験上、設計品質が低下する背景には以下のような課題が潜んでいます
- 顧客ニーズの理解不足のまま設計が進む
- 安易な目標設定(従来品や他社同等など)
- 設計根拠が不明確で意図が伝わらない
- 過去の失敗が活かされず、同じミスの繰り返し
- 試作ではOKでも量産で不具合
- 組立性や保守性を考慮しない構造設計 など
いずれも、
「設計の意図と根拠が共有されていない」
ことが根っこにあります。
設計品質を向上させる具体的なアプローチ
では、どうすれば「設計品質の見える化」が実現できるのでしょうか?
具体的なポイントをいくつかご紹介します。
- 市場ニーズを設計目標に変換する(S→H変換)
たとえば「映りの良いテレビ」という要求を、「解像度○○以上」「コントラスト比△△」といった技術的指標に落とし込む力が求められます - 一般のユーザー様から、技術目標の要求がくることはありません
- 品質要素を網羅して設計目標を設定する
性能・安全性・信頼性・外観・使用性・保守性…といった観点で設計項目を洗い出すことが重要です - 仮説検証型の論理設計へシフト
現物合わせではなく、論理的考え方をベースに「なぜそう設計するのか」の仮説→検証の流れを重視します - ロバスト性のある設計を目指す
使い方や環境のバラツキにも耐えられる“強い設計”を意識します - 設計記録を残し、次につなげる
ナレッジとして組織に蓄積し、人材育成や次期商品への活用へ
設計は“品質保証の原点”
品質トラブルの約8割が「設計起因」と言われるのも納得です
製造現場では、品質を保証する「正しい部品」「正しい手順」「正しい道具」があっても、設計がズレていれば、品質は担保できません
検査や評価ではなく、「お客様視点の目標設定」→「論理的根拠に基づく設計」→「その見える化と確認」という一連の流れこそが、真の品質保証につながります
最後に:設計者の誇りと責任
「なぜこの設計にしたのか」を自信を持って語れる設計者は、間違いなく強い
そして、その姿勢は組織にも伝わり、製品にも現れます
設計品質を高めることは、製品の信頼性を高めるだけでなく、お客様への約束を果たすことでもあります。
そのための第1歩
設計の「見える化」
始めてみませんか?
私は「見える化」するための手段としての資料を、「機能設計書」と呼んでいます
次回はこの「機能設計書」を使って「見える化」の具体的な方法について話を勧めます。



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