【工場の閉鎖で感じたこと(3)】強制的に退職させられる従業員たちへの対応

ものづくりの話

海外赴任先の海外連結子会社を閉鎖した経験があります

こんな仕事はできるならしたくない仕事ですが、時代とともに環境が変化するなか、やむを得ない決断をしなければならない時はあります

その時の経験を備忘的に書き留めています

第3回目、従業員の退職時の対応についてです

閉鎖発表後のリスク

工場閉鎖の決断が10月にされ4月に従業員に発表しました

その間約半年間、発表後のいろんな活動について機密保持契約を結んだわずかなメンバーと準備を進めてきました

その中で、大きなポイントが従業員への対応、退職の条件です

発表時までに決めて、いつどのような条件で退職するかを伝えなければなりません

閉鎖後は、閉鎖する会社の金型や生産設備を別の工場に移管して同じ商品の生産を継続することが決まっていました

どの商品を継続する、中止して新商品に置き換えるかなど検討した結果、多くの商品を移管し継続するとの判断です

その場合、設備や金型を移管し、別の工場で生産を立ち上げる時間が必要です

その間に市場に供給する商品の在庫を作り貯めなければなりません

その場合のリスクが、「閉鎖発表後従業員のモチベーションが下がり、生産性が大きく低下し、商品を作り切れなくなる」ことです

工場を閉鎖するのはあくまでメーカ側の都合ですので、お得意様(販売店様)は当然安定した商品の供給継続を要求します

もしそれができなければ、お店に商品を展示してもらえなくなります

いったん商品の展示がなくなれば、代替え工場で生産しても売れなくなることを意味します

ですので、必要数量の商品の生産が完了するまで、いかに従業員をモチベーションを維持して生産活動を確実に行うかが重要になるわけです

必要数量を見積もり、生産を完了するには4月から半年、10月まで必要と結論付けました

約半年間、職をなくなることが分かった状態で仕事をしてもらわなければならないということになります

そのモチベーションを維持するには、退職時の対応(特に退職金)は重要な要件になると考えました

まずはヒアリング

自分で考えてもわからないので、ツテをたどっていろんな人にヒアリングをしました

まずは、日本でいう労働基準監督署の元署長さんに話を聞く機会を得ることができました

「発表後、半年も生産継続(*_*) ありえん、従業員はまともに働くことは考えれん、発表即閉鎖すべし」

何とも、厳しい意見でした

ちょうど同じころ、某自動車メーカー(日系ではありません)が工場を閉鎖し、そこは発表後1週間後に全員退職させてとのことでした

「やべ~~~~っ」

って感じでしたね

別のツテで、日本人で工場閉鎖経験のある人に話を聞きました

その会社は、発表後2ヶ月で閉鎖としたようです

特に問題なく、最後まで生産できたようですが、かなりの退職金を積んだようです

ただ、2か月ですのサプライヤーさんへの補償でかなりのお金が必要だったとのこと

2か月だと、サプライーも部材があまり捨てなければならず、その保証を要求したようです

それを考えると半年くらいは必要とこでした

その意味では、発表後半年は妥当だったかもしれません

役に立たない日本本社

こういう場合、全く役に立たないのが日本本社です

それは、当たり前で、労働環境、慣行は国によってかなり異なります

全く、現地の会社閉鎖の経験のない人たちは人事のプロでも全く役に立ちませんでした

「現地の判断に任せます」

当たり前と言えば当たり前ですが・・・

そこで、私が本社に依頼したのは

「どのような判断をしても文句言わんといてな」

つまり

「必要な金はしっかり使わせてもらいまっせ」

と言う意味です

従業員発表後モチベーション維持対策

結局、生産のモチベーションを維持するためにしたことは「退職金の積み上げ」です

結局、「お金」で解決ですね

かといって、どこまで出すか非常に難しい

少なすぎたら不満が出ますし、多すぎても「もっともらえるかも」みたいな気持ちになったり、社会的影響も気になりました

現地の人事コンサル、人事経験者に意見を聞きながら、「法定退職金の2倍程度」を退職時に払うことにしました

勤続年数や年齢等で細かく言うともう少し幅広いのですが、大体2倍程度になるように設計しました

本社も一部「多すぎるちゃう!!!」と言う意見もありましたが、「円滑に生産、閉鎖、移管ができるために必要」と言い切って、承認もらいました

発表後

「期日までに必要数量に生産に協力してくれれば、支払いする」

と意味の書類にサインしてもらい、期日までに1名(組合の委員長)以外全員提出来てくれて、かなりホッとしたことを覚えています

発表後のイロイロ

発表後、退職金の効果がどこまであったかわかりませんが、心配していた従業員のモチベーション低下による生産減は発生せずに済みました

本当にホッとしました

結局生産だけでなくその後の設備の廃却や移管まで最後まで本当に協力的に活動してくれました

もう一つ、発表直後の恐れていたことの一つは「退職金積み増し交渉の要求」でした

この要求を受けたらキリがなくなるので、毅然と断るつもりでした

逆に、それを組合が受け入れないなら、生産を遅らせるくらいの腹決めはしていました

結論その要求もなかったのです

あの「とにかく会社に要求する組合」が何も言ってこなかったのは少々不思議でした

ローカル幹部にヒアリングしたところ、彼らが言うのは

「世の中には会社を突然閉めて従業員に貸借金も払わず逃げる経営者もいる中、かなりの積み上げた退職金を出してもらえたので従業員は十分満足できる」

「これだけの退職金があれば、それを元手に田舎に帰って商売して生活することができる」
(実際ラーメン屋やったり、トラクターを購入して近所の畑を耕して商売する等、結構再就職せずたくましく生きている従業員も多いと聞きました)

「皆田舎から出てきて工場勤務しているが、やはり両親のいてる田舎に帰りたいのが本音、その切っ掛けを作ってもらえた」
(病気がちの両親いたり、子供を田舎の両親に預け、都会で共働きしている従業員は沢山いました。
 休憩中に、田舎の両親に預けた1歳にも満たない赤ちゃんの写真を見てる女性社員を見たこともあります)

ですの、多くの従業員は会社の提示した条件で十分満足し、早々に書類にサインし提出しました

ですので、組合も条件交渉に持っていく時間がなかったのが現実だったようです

私自身も長く現地で仕事していましたが、「従業員のきもちわかってないなぁ~~~」と思った瞬間でした

最後に

生産を終え最後退社を見送った時、沢山の従業員がから

「社長、ありがとうございました」

と言葉をもらい非常に驚きました

そして、従業員たちがある程度満足してもらえたと実感として感じることができまた、

必要な生産台数を生産し、かつ労働問題を起こさず、職をなくさせた社長に「ありがとう」まで言って退職してくれる

サラリーマン生活で今までで3回ほど涙を流しそうになったことがありますが、この時がその内の一回でした

順調に生産を終えることができたことに、私自身がどこまで貢献できたかわかりませんが、少なくとも彼ら彼女らの献身的な思いがあったことは間違いないでしょう

少しチープの表現ではありますが

「オレはこんな従業員たちを仕事できて幸せものだ~~~」

と感じた瞬間でした

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