診断士活動を始めて感じたこと
診断士として中小企業の現場に関わるなかで、二つのことを感じています。
一つは、「大企業で当たり前だった仕組みを、そのまま持ち込んでもうまくいかない」こと
もう一つは、「大企業より改善文化を作りやすい条件が、中小企業にはもともと揃っている」こと
診断士の先輩方からも、同様の話をよく聞きます。
この記事では、その条件をどう活かすかを、方針展開の視点で整理します。
これまで書いてきたこと:改善活動を継続させる三本柱
以前の記事で、改善活動が継続する文化の醸成には「トップの意思」「教育」「評価」の三つが必要だと書きました。
https://www.kevin-dynamite.com/【改善活動が継続する文化の醸成】について考え/
先日は、「改善する人」ではなく「改善する組織」をつくる、という話も書きました。
https://www.kevin-dynamite.com/sosikitosite-kaizen/
今回は、その具体策を中小企業の視点で考えます。
中小企業の強み:トップの意思が近い
中小企業の最大の強みは、社長と現場の距離が近いこと。
社長が自分の言葉で方針を語り、現場を自分の目で見て、教育も評価も当事者としてできる。
三本柱の「トップの意思」は、中小企業の方がずっと伝わりやすいと考えています。
私が社長を務めた海外拠点は、中小企業よりも大きい規模でした。
そこでは
「自分の考えが現場の末端に届き、理解されて行動に移るまでに時間がかかる」
「間に入る管理者に大きく依存する」
ことを感じてきました。
中小企業の弱み:役職・責任の曖昧さ
ただし、弱みもあります。
役職や責任の曖昧さは大企業にもありますが、中小企業はそれ以上に曖昧なことが多いと感じています。
私が見てきたいくつかの中小企業では、組織図はあるのに、指揮命令系統(レポートライン)が実態と合っていません。
典型的なのは二つです。
一つは、同じ部に課長が何人もいるのに、レポートラインは全員部長へ。
課長は職位ではなく、肩書きになっています。
もう一つは、課長が他部門と兼務し、上司が二人いるケース。
兼務している片方の部門(課長が得意でない分野)は、実質的に部下に任せきりになっています。
規模が小さいと、組織を機能させなくても社長や古参社員がその場で判断して回ってしまう。
そのため、役割を明確にする必要を感じにくく、方針の展開や報告も重要視されにくい環境になっています。
中小企業こそ方針展開が有効な理由
この弱みを補い、強みを活かす手段として、私は「方針展開」が有効だと考えています。
方針展開とは、社長の方針を経営目標に落とし、それを実現するための課題(=問題を解決するための活動)を設定して、上位の方策を下位が自分の課題として受け取っていく手法です。
https://www.kevin-dynamite.com/方針展開を行い、課題を設定する/
大事なのは、展開するのは数字ではなく活動だということです。
数字(KPI)は、その活動が進んでいるか、結果が出ているかを測るためにレビューで使います。
流れはシンプルです。
社長は部長に、部長は課長に、課長はリーダーに、順に方針を展開し、各部門で取り組む課題を決めて活動を進めます。
そして、活動の問題点やその結果を測る数字(KPI)を定期的にレビューします。
頻度は活動や職位によって、週次、月次、四半期ごとと決めます。
前提:実際の報告関係に沿って展開する
階層が実体として機能していることが前提です。
課長が肩書きだけの会社で「社長→部長→課長」と展開しても、実行するメンバーに行き届きません。
まずは組織図ではなく、実際の報告関係に沿って展開します。
部員が部長に直接報告しているなら、部長から部員へ。
兼務の課長には、どちらの部門の課題を誰がレビューするかを決める必要があります。
正直に書くと、方針展開は曖昧な組織を自動で直してくれる手法ではありません。
ただ、展開してレビューを回し始めると、「この課題は誰が見るのか」=「課題の責任者、責任部署」が決まらず、手が止まる場所が必ず出てきます。
そこが、組織の曖昧さが表に出た場所です。
課題の責任者は社長の一声で決まることもありますが、本来は、肩書きと役割が整理された組織構造によって決まるべきことです。
それは別の機会に書きます。
まずは実際の報告関係に沿って始め、止まった場所から見直していく。この順番が現実的だと考えています。
方針展開が中小企業で効く理由
その理由は二つあります。
一つ目は、階層が浅いこと。
海外拠点で実感したことですが、方針は階層を通るたびに解釈が薄まります。
中小企業は社長から現場まで二、三階層。薄まる機会も、フィードバックが返るまでの時間も少なくて済みます。
二つ目は、報告関係が機能している部分では、レビューの担当が自然に決まることです。
「上司が部下の課題をレビューする」
それだけで「この件は誰が見ているのか」が決まり、役割を一から文書化しなくても、レビューの経路がそのまま責任の経路になります。
ただし、自動的にうまくいくわけではない
階層が浅いだけでは、うまくいきません。
方針展開の質を決めるのは、上司が部下の課題設定をレビューするときの「問い返す力」です。
例えば、課題が「〇〇の強化」のような曖昧な言葉の場合があります。
そこで上司は部下の方針展開・課題設定時に
「それ、去年も言うとったんちゃうか」「今までなんでできていなかったん?」
と問い返し、具体的な活動に落としていかなければなりません。
これにはそれなりの経験が要ります。
https://www.kevin-dynamite.com/現場力強化のための課題設定をし易くする方法1/
https://www.kevin-dynamite.com/現場力強化のための課題設定をし易くする方法2/
社長が現場で確かめる
私自身は、海外拠点の社長として、現場に足を運んで直接話すようにしていました。
ただし、社長として新たな指示は出しません。
レビューで部長がどう展開しているかは把握しているので、「〇〇部長は、こんなことを進めようとしているけど、できてる?」と、
進み具合を聞くだけです。
その結果は、「現場を見てきたけど、〇〇の件は進んでる?」といった形で、状況に応じて上司に返します。
指示の経路は階層のまま守り、社長は、方針がどこで薄まっているかを確かめる役に徹する。
社長と現場の距離が近い中小企業では、これはさらにやりやすいはずです。
まとめ
トップの意思が近いという強みと、役職・責任の曖昧さという弱み。
この二つをつなぐのが方針展開です。
「実際の報告関係に沿って方針を展開し、同じ経路で報告を受けレビューする。」
このシンプルな仕組みが、近さという強みを機能する力に変えてくれます。
さらに、回し始めて止まった場所は、組織の曖昧さを見直すきっかけになります。
「中小企業こそ、方針展開が有効」。診断士として、これからも現場で確かめていきたいと思います。
*注記:今回の考察は、階層が浅いことが前提です。拠点が複数ある規模では、別の整理が要ります。


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