前回のブログで、「データを見ても動かない現場、動いても本質に届かない現場」について書きました。
いろんな場所で不良率のグラフや稼働率の推移が並んでいるのに、そこから先の議論につながらない現場。
担当者が「原因はこれです」「対策はこうします」と報告してくるのに、真の原因に対策していないため同じような問題が形を変えて何度も出てくる現場。
どちらも、私自身がいろんな現場で実際に見てきた光景です。
https://www.kevin-dynamite.com/data-genba-kaizen/
これは自分が見てきた現場だけの話ではなく、感覚的ではありますが「どこの会社でも起きてるんやろうなぁ」、とは思っていました。
「そのような現場を改善したい」との思いが、私を中小企業診断士になる理由の一つでもありました。
そう、思っていたところ、ものづくり白書のもとになった三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査(MONOistが紹介)に同じ構図が数字として出てきて、私の思いを裏付けることができました。
【考える現場づくり】の第2段として、数字を紹介しながら、前回書いた話とどう重なるのかを見ていきたいと思います。
データは取れるがつながらない ものづくり白書に見る製造業DXの課題:ものづくり白書2026を読み解く(2)(1/2 ページ) – MONOist
データはある。見ている。でも、そこで止まっている
ここに出てきている調査結果によると、製造現場で何らかのデータを取得している事業者は66.0%。7割弱まで来ています。
ここだけ見ると、それなりに現場のデジタル化は進んでいる印象を持つかもしれません。
ところが、そのデータを活用して「効果があった」と答えた事業者は43.9%。約4割にとどまります。
取得と効果のあいだに、22ポイント以上の差がある。
これは、前回書いた「データを見て言葉にしているだけで、そこから先の議論につながらない」状態と、そのまま重なる数字だと思います。
データはある。見ている。「目標達成です」「この工程で発生が多いです」と説明もできる。
しかし、その状態が良いのか悪いのか、次に何をすべきかの判断にまでは至らない現場が、半分以上あるということではないでしょうか。
AI活用の手前にある、連携という土台の弱さ
ここからが今回の本題です。
私は、AIの活用が遅れていること自体が問題だとは思っていません。
本当の課題は、その前段階である「データ連携」という土台が十分に育っていないことです。
AIの話をする前に、まずはその土台がどの程度できているのかを見てみます。
先ほどの記事によると、社内の各工程・部門内で何らかのデータ連携を行っている比率は、それぞれ約3割。
工程ごとにデータは取っているけれど、隣の工程、隣の部門とは繋がっていない、という状態がここに表れています。
では、工程・部門を越えた連携はどうかというと、これが1〜2割まで落ちます。
さらに、企業や業界をまたいだデータ連携になると、「進んでいる」と答えたのはわずか3.2%。
サプライチェーン内の他企業との連携に絞っても16.4%で、2023年時点とほぼ横ばいです。
2年前から、ほとんど動いていないということになります。
つまり、こういう三段階で数字が細っていきます。
・工程・部門内の連携:約3割
・部門を越えた連携:1〜2割
・企業・業界横断の連携:3.2%
段階が進むごとに、数字がどんどん小さくなっていく。
前回書いた「機会不足」、特に「上司が現場と一緒にデータをレビューしていない」という話を、私は一番根深い問題だと書きました。
この数字は、その根深さが個々の現場だけの話ではなく、業界全体で起きている構造だということを裏付けているように思います。
AI活用は、データ活用の文化や仕組みがあってこそ
ここでようやくAIの話に入ります。
同じ調査によると、データ連携を行っている事業者のうち、「連携でAIを活用していない」と答えた割合は71.8%。
連携という土台がある事業者の中でも、AIまでたどり着いているのはごく一部だということです。
内訳を見ても、
サービスチェーン内のみでAI活用しているのが8.1%、
エンジニアリングチェーン内のみが5.0%、
プロダクションチェーン内のみが6.2%、
サプライチェーン内のみが5.0%。
どれも一桁台にとどまります。
つまり「連携→AI活用」という2段階のうち、多くの事業者はまだ1段階目にすらいません。
AIが遅れているのではなく、その手前の土台がそもそも育っていない、という話です。
工程改善でも、現状を正しく把握せずに改善だけを進めても成果は出ません。
AIも同じで、データを活用する文化や仕組みがあって初めて力を発揮します。
「AI活用が遅れている」というデータの意味するもの
「AI活用が遅れている」という見出しだけを見ると、まるで土台(データ連携)は整っていて、AIだけが遅れているように誤読しやすいです。
しかし、ここまで見てきた数字が示しているのは逆です。
土台がほとんど無いところに、いきなりAIの話を乗せても機能しません。
これは前回書いた「レベル0を先に固める」という話と、そのまま直結します。
この調査では、AI・デジタル技術活用の課題として
「知識やノウハウの取得」が57.2%で最多、
「導入に必要な人材の確保」が47.9%
と続く、というデータも出ています。
これは、AIの活用と言うだけでなく、「データそのものの活用が課題」と言うことも大きく含んでいるのではないでしょうか?
「データを使って現場を改善する」という文化や習慣が組織に根付いていなければ、「AIを活用してさらに改善しよう」という発想には自然とつながりません。
そして土台が育つ前に技術だけを導入すれば、結局は「処置」で終わってしまう。
前回、新人のミスによる不良に対する対策として新人の再教育だけでは「傷口に絆創膏を張っただけ」と書きましたが、土台が育たないままAIだけを導入すると、それも新人教育と同じ「対症療法」になってしまいます。
AIを導入すること自体が目的となり、本来目指すべき「現場をより良くする」という目的が置き去りになってしまう危険があります。
まとめ
今回紹介した調査結果は、私がこれまで多くの製造現場で感じてきたことを裏付けるものでした。
データは取れている。しかし、そのデータが改善活動や意思決定につながっていない。
さらに部門や企業を越えたデータ連携となると、その割合は大きく下がります。
つまり、「AI活用が遅れている」のではなく、その前段階であるデータ活用やデータ連携という土台が、まだ十分に育っていないということです。
主役はAIではなく、人です。
AIは、現場で考え続ける人を支えるための道具に過ぎません。
データを見て考え、議論し、改善につなげる。この積み重ねがあって初めて、AIは現場の力を高める道具になります。
土台がないままAIだけを導入すると、「AIが出した答え」を受け取るだけになり、自ら考える力を弱めてしまう危険もあります。
では、AIとはどのように付き合えば、現場の考える力を伸ばせるのでしょうか。
次回は、私が考える「AIを先生ではなく、壁打ち相手として使う方法」について書いてみたいと思います。
出典:ものづくり白書2026(経済産業省・厚生労働省・文部科学省)、および同白書のもとになった三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和7年度産業関係調査等事業(我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査)報告書」(MONOistによる紹介記事を参照)



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